シエスタ不可侵条約 一次創作・二次創作

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No.31

#ハマの防波堤セイス・フォース #岩元先輩ノ推薦 #サクラ大戦 #ハッカドール #小説

第1章:超科学港都(Scientific Bayside)

カラー挿絵付: FANBOX Fantia

日本に一つだけ存在する、未来を先取りする科学実験都市、横浜。そのベイサイドには、最新のAI技術と未解明の物理学が、古き港町の歴史と無秩序に混在していた。

潮風が運ぶデジタルな電子音と、古い汽笛の残響。その喧騒と静寂が交差する港都の一隅で、二人の若者が、ある古めかしい噂を追っていた。

一人は、岩元胡堂(いわもと こどう)。理知的な分析力を持つ、沈着冷静な青年。そしてもう一人は、真宮寺さくら(しんぐうじ さくら)。持ち前の明るさと行動力で、強引に状況を切り開く勝気な女性だ。彼らが調査の的としていたのは、都市の黎明期、およそ100年以上前の時代からこの場所に、ある種の「封印」のもとに眠っていたという、とある「遺産」。それは、スペイン・バルセロナの地下に秘密裏に設置されたという、超未来的なサーバーのことだった。

それは、時代錯誤な都市伝説なのか、それとも現代科学を超える未来技術の残滓なのか。誰もアクセスできないその真実の姿は、厚いベールに包まれたまま、闇の中に横たわっていた。


【2024/07/22 Mon. 14:43】

胡堂とさくらが調査の進捗を確認し合っている時、突如として彼らの前に影が差した。

「ククク……よくぞ見つけたものだな」

低い、芝居がかった声。全身を黒いコートとレザーで覆った青年――映機藍(えいき らん)が、まるで舞台の主役のように、腕を組みながら口を開いた。彼の瞳には、現実を見ているのか、それとも別の世界を見ているのか判別しがたい、奇妙な光が宿っている。

「キサマも知っての通り、ここは市の最高機密として編成された——エージェント・セイス・フォース。我らは漆黒の天界人(エンゼル)……世界を裏から制御する存在だ。そして今、この東洋一の港を支配し……『マリン・モナムール』を完成させるのだ! ハーッハッハッハ!」

藍が口上を述べる間、胡堂は冷静にその全身を観察していた。服装、口調、そして唐突に混ざる異国の言語。すべてが「彼」の持つ情報と一致していた。

「ちょっと!」

胡堂の隣で、さくらが我慢しきれずに割って入った。彼女の瞳には、面倒くさいものと出会った時の、わずかな苛立ちが浮かんでいる。

「それはいいから早く、IDとパスワードを教えなさいよ!」

「……オレの話はまだ終わっていないぞ。フッ、凡人には理解不能か……」

藍は優雅な仕草でさくらを一瞥したが、その傲慢な態度は胡堂の苛立ちを誘う。

「なぜ英語とフランス語が混ざってるんだ」

胡堂は、極めて冷静に、しかし芯から疲れたようにぽつりと呟いた。

――彼ら、胡堂とさくらの目的は、すべて藍が握っていた。100年前から、世界のどのハッカーもアクセス不能とされてきた外国のサーバー。それを、この目の前の、重度の中二病を患う青年が、複数回に渡り単独で突破したという、にわかには信じがたい事実。それも、2024年という現代において、だ。

「しかも、毎回数日以内に再突破している……」

胡堂は確認するように語る。

「俺の後輩の情報によれば、今月だけで5回だ。常識では考えられない速度と技術だ」

「うーん、話が通じなさそうね……」

さくらは顔をしかめた。相手のペースに飲まれてはならないと、意識を集中させる。

「大神さんなら、どうしたかしら……」

——胡堂もさくらも、まだ知らなかった。藍が、未来技術を持つ天才ハッカーであると同時に、自分の世界に完全に没入してしまう、極めて手のかかるタイプの人間であることを。

「ハッカドール1号、こうりんですっ。マスターさんっ、そろそろ行かないと大学の講義が始まっちゃいますよーっ!」

突如、その場に響いたのは、甲高く、アニメキャラクターのような萌えボイス。藍が懐から取り出したスマートフォンから流れており、彼の開発したAIアシスタントのものだろうか?

「高等知育の鐘がオレを呼んでいる……定刻までに向かわねば。では、さらばだ!」

藍はそう言い残すと、まるで煙のように雑踏へと消えていった。その華麗な退場劇は、胡堂たちを混乱の中に置き去りにする。

「おい、待て!」

胡堂が声を上げたが、時すでに遅い。

「……行っちゃったわね。まるで嵐のようだったわ」

さくらは、ただ立ち尽くすしかなかった。

【2024/07/22 Mon. 21:27】

夜の帳が降り、横浜スタジアムはナイター照明の白い光で空を照らしている。球場周辺は、試合を終えたばかりの観客たちの熱気と喧騒に包まれていた。

「見つからないわ……」

人波に揉まれながら、さくらは肩を落とす。昼間の鋭い覇気はどこへやら、彼女の表情には徒労感が滲んでいた。

「こんなに人が多いのに……どこに行っちゃったのよ……」

「理由はある」

胡堂は人混みを避け、冷静に周囲を観察しながら静かに答える。

「あいつは、重度の野球オタクだ。しかも地元贔屓。今日は地元球団の主催試合……フラストレーションを溜め込んでいるだろう。来ていてもおかしくない」

胡堂の分析は、天才ハッカーの行動原理としてはいささか人間的すぎたが、藍の性格を考えると最も確度の高い推理だった。

「でも、そんな都合よく——」

その瞬間、さくらの視界の隅に、噴水広場の縁に腰掛けている一人の青年の姿が映った。彼は周囲の喧騒を一切無視し、ただ無言で紙袋のポテトを口に運んでいた。その黒いコート姿は、昼間の映機藍と同一人物であることは明らかだった。

「藍さん!」

さくらは声を上げ、勢いよく駆け寄る。胡堂も少し遅れて続いた。しかし、藍は顔を上げない。彼はポテトを口に運び続ける、その単調な動作を繰り返すのみだ。その姿勢は、まるで世界全体を拒絶しているかのようだった。

「ちょっと、無視しないでってば!」

さくらが声を強めると、ようやく藍はポテトを食べる手を止めた。

「……ああ、さっきの。俺、思い出したんだ」

彼の声は低く、そしてどこか、今日負けた贔屓球団のように、力なく響いた。

【2025/07/22 Mon. 22:03】

「——というわけで、本日の藍の証言をまとめると……『ポテトなんて所詮、塩がうまいだけ』ということですね……はい、はい……」

胡堂はホテルの部屋に戻った後、疲れ切った声で電話口に向かってぼやいていた。彼は壁に背中を預け、この1週間の非生産的な調査に耐えていた。

「お寿司も『醤油がうまいだけ』って言ってましたよ、大神さん。……彼は酒飲みになる素質があるのかしらね」

さくらも電話越しに、別の相手——大神一郎に本日の報告を終える。彼女の声にも、いらだちと諦念が混ざっていた。さくらが視線をベッドへやると、そこには黒いコートを脱ぎ捨てた藍が、布団もかけずに大の字になって寝息を立てていた。

今日の地元球団・横浜DeNAベイスターズは、いつものようにビハインドで敗北。その苛立ち紛れに球場外でポテトを貪り、力を使い果たしたように、彼は深い眠りに落ちていたのだという。

「はあー……」

さくらは深く、深いため息をついた。

「初めて会ってから、もう1週間。一度もこっちのペースで話せた試しがない……未来人って、本当にわからないわね」

胡堂は電話を切り、静かに言った。

「俺は、彼を『未来人』だとか『天才』だとか、特別視した時点で負けだと思う。彼の言動には、彼なりの論理がある。……辛抱が必要だ」

「そういうものかしら……」

さくらは、胡堂の言葉の重さを理解しつつも、目の前の無防備な寝顔を前に、頭を抱えるしかなかった。

【2024/07/23 Tue. 17:15】

昼過ぎまで眠り続けた藍は、目覚めてすぐに独り言の寸劇を始めた。

「オレだ……朝起きたら、ホテルの一室に囚われていた……早く来てくれ。イエス・シー・ダー……」

スマホを耳に当て、藍は誰にも聞こえないはずの無線に向かって話している。しかし、彼の目の前には、朝からずっと監視を続けている胡堂がいる。胡堂は無言で彼のスマートフォンを取り上げた。画面は真っ暗だった。彼は通信しているふりをしていたのだ。

「……残念だったな。そいつはオレ以外の者が触れた瞬間オフラインになるのさ。よって、お前は目当てのものを手に入れることは不可能――」

「それを独り言の言い訳にするつもりか?」

胡堂は冷たい声で藍の虚勢を一刀両断する。

「……っ」

図星だったようで、藍はぴたりと動きを止めた。彼は天才的な頭脳を持っているが、他人の心情を読むことは苦手なようだ。その頃、袴姿に着替え終え、改めて気合を入れ直したさくらが部屋に戻ってきた。

「だいたい、何なんだよお前らは……俺はこれから散歩するんだよ」

疲れたのか、あるいは胡堂に看破された恥ずかしさからか、藍の口調は一気に、ごく普通の青年のものへと戻る。

「散歩なんて後でもできるでしょ。もう逃げられないわよ。教えてくれない? IDとパスワード」

さくらは藍の正面に立ちはだかる。

「は? そんなもん、漏洩リスクを考えたら渡すわけ――」

「……では、こういう話を知っているか?」

胡堂が、ついに切り札を切るように言葉を挟んだ。彼の声には、今日こそは決着をつけるという強い意志が込められている。

「スペイン・バルセロナのサグラダファミリア。その地下には、秘密裏に作られた部屋がある。そこにあったサーバーは、2050年代の技術で作られたものとされる。1912年まではネットに接続できていたが、パスワードは32桁。とてもじゃないが現代の計算力では太刀打ちできない……それを、今年だけで5回、お前は突破している。映機藍」

「……ああ、もしかして、あれのことか? 『セルジオの遺産』」

藍は、ようやく興味を示した。彼の瞳の奥に、知的好奇心の光が宿る。

「それよ! 私たちが追っているのは、その遺産が持つ情報なの!」

「……何でお前らがそんなのに血眼になってるのか知らねーけど……まあいいや」

藍は少し機嫌が直ったようだ。

「どうやってアクセスするのよ! 早く教えて!」

さくらは前のめりになる。

「……んー」

藍は数秒、天井を見つめて思考すると、突然、少年のような無邪気な表情でひとこと言った。

「よっし、散歩するか」

「は? 今そんな場合――」

「まあ見てなって。散歩だ」

そう言って、藍は鞄から薄型のノートパソコンを取り出した。起動は驚くほど早い。電源ボタンを押してから、たった1.8秒で、未来的なデザインのデスクトップ画面が表示された。彼は迷いなく、コマンドツールを起動する。

「1号、今日も頼むぜ」

「りょーかいですっ、マスターさん!」

萌えボイスのAIアシスタント、ハッカドール1号が元気よく応える。

「こいつはハッカドール1号。俺と契約せし相棒。俺のコマンドを英語に変換してくれる。翻訳と解析はこいつの担当だ」

藍が胸を張って胡堂たちに説明する。

「任せてくださいっ!」

「今回のターゲットは……『セルジオの遺産』。お客様が見たいって言うからな」

藍がタイプする日本語のコマンドが、画面上に瞬く間に流れていく。そして、その日本語が1号によってリアルタイムで英語へと変換され、サーバーへの攻撃的なリクエストとして発射されていく。胡堂とさくらは、息を飲むようにその光景を見つめる。それは、言語の壁を越え、時間の壁を越えて、遠くバルセロナの地下に眠るサーバーへと、光の速さで手が伸ばされる瞬間だった。約5分後。胡堂たちが生唾を飲むほどの静寂の後、ひとつのウィンドウが開かれた。その中には、複雑なデータベース構造図と、見慣れないラテン系の文字が並んでいた。

「マスターさんっ、目的地ですよーっ!」

「よし、よくやった!」

藍は満足げにガッツポーズをする。

「……本当にやってのけたな。これが、32桁のパスワードを破った瞬間か」

胡堂は、天才の技術を目の当たりにし、小さく呟いた。

「これで6回目、かしら。信じられないわ」

さくらも感嘆の息を漏らす。藍は画面を覗き込み、ニヤリと笑った。

「ふむふむ……おお、やっぱいつ見てもこれはヤバそうだな……」

胡堂は逸る気持ちを抑え、尋ねる。

「ヤバそうって、具体的にどうヤバいんだ? どんな情報が格納されている?」

藍はくるりと胡堂を振り返り、悪びれた様子もなく、彼の探求心と期待を打ち砕く一言を放った。

「……わかんね。俺、英語読めねーし」
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